【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長
医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長
悪液質とは
がん患者さんの中には、どんどん痩せていく状態になる人がいます。
痩せてしまう原因として、消化器系のがんのため機能的に食事が困難になる、精神的ショックから食欲不振になる、抗がん剤や放射線治療の副作用のため食事が困難になる、といったことが挙げられます。
しかし、これらの機能的や精神的に食事ができないことによる“痩せ”とは異なる“激やせ症状”が、悪液質という状態です。
悪液質の診断基準
がん患者さんの場合、次のいずれかに該当する場合、悪液質と診断されます。
- 過去6カ月間の体重減少が5%を超える
- 2%を超える体重減少, BMIが20%未満
- 2%を超える体重減少, サルコペニア(骨格筋量の低下、筋力の低下や身体機能の低下)の状態を伴う
機能的もしくは精神的な原因で痩せてしまった場合でも、栄養状態が改善されないと悪液質の段階に進んでしまう可能性があるので注意が必要です。
悪液質の時、体はどうなっているのか
悪液質の症状のとき、体内ではどんなことが起こっているのでしょうか。
がん細胞は栄養を摂るために、タンパク質や脂肪を分解する物質を分泌して糖に変えたり、細胞同士でコミュニケーションを取るための物質の一つである炎症性サイトカインや細胞増殖因子などの特殊なタンパク質を放出したりすることで、周囲の環境を自分の都合のいい状態に変えていっているのです。また、正常な体内の血管から新たな血管を形成し、そこから栄養と酸素を奪うなど、さまざまな代謝異常を引き起こしている状態なのです。
そのまま放っておくと、がん細胞はますます大きく成長し、患者さんはガリガリに痩せ衰えてしまいます。このような状態では抗がん剤の副作用が出やすくなり、がん治療を積極的に行うことは難しくなります。
悪液質と診断されても、されなくても、筋力が低下していないか、体の痛みの状態はどうか、血液検査のアルブミンの値は下がっていないか等、自分でも意識して注意を向けて症状が改善するよう医師に相談しながら積極的に対策していくことが大切です。
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症状の改善に漢方薬の六君子湯など
悪液質の発症メカニズムの解明が進むにつれ、漢方薬の六君子湯(りっくんしとう)が症状改善に効果があると期待されるようになってきました。
六君子湯は、蒼朮(そうじゅつ)、人参(にんじん)、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、大棗(たいそう)、陳皮(ちんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)という8つの生薬を組み合わせたものです。食欲不振、体力・気力が衰えて弱々しいといった、東洋医学で「虚証」と言われる状態の人に、古くから処方されてきました。
六君子湯の働き
この六君子湯は、胃から分泌されるグレリンという食欲促進ホルモンの分泌を高めるとともに、迷走神経を介して脳へ伝達され、視床下部にある食欲促進の中枢に働きかけることが確認されています。
単に食欲促進ホルモンのグレリンを患者さんに投与しても、食欲に変化が見られない場合があります。悪液質の場合は、がん細胞から生体の調整機構を乱すさまざまなサイトカインが放出されているため、本来なら食欲促進のサインをキャッチして、食欲を促進するよう活性化していくはずの視床下部に、誤った情報が伝えられ、食欲が抑えられてしまうと考えられています。それ故、胃からのグレリン分泌促進と、脳の視床下部での食欲中枢の活性化という、2つの作用を併せ持つ六君子湯が、悪液質の改善にたいへん有効であると考えられるのです。
グレリン様作用のお薬も発売に
漢方薬の六君子湯の他に、今年の4月21日からグレリン様作用薬が発売されました。この新薬は今のところ非小細胞肺がん、胃がん、すい臓がん、大腸がんの方が対象となっており、自由診療になりますが当院でも院内処方を行っています。悪液質でお悩みの方はご相談ください。
東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
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