免疫細胞療法の意味と役割

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

免疫療法という言葉がよく知られるようになってきました。

免疫療法と呼ばれるものは様々なものがあります。ここでは大きく2つに分類して、薬剤による治療を「免疫療法」、免疫細胞を使った治療を「免疫細胞療法」と呼ばせていただきます。

私たちの体には自ら病気を治す天与のメカニズムである免疫力という生体防御システムが備わっています。この免疫力を研究して生まれたのが免疫療法や免疫細胞療法です。

今回は免疫細胞療法の意味と役割について知っていただきたく、まずは簡単な歴史からお話しさせていただきます。

免疫療法/免疫細胞療法の歴史

[第1世代]

その歴史は、キノコの中に存在するがんに有効と思われる成分を抽出した医薬品のレンチナンやクレスチン、結核予防ワクチンのBCGなどの免疫賦活剤から始まりました。医薬品として認可されたものですが、これでがんが治るというよりも、体の免疫環境を変えるものと考えた方がいいでしょう。これが第一世代の免疫療法です。

[第2世代]

続いて1980年代に登場したのが、インターフェロンなどのサイトカイン療法です。サイトカインというのは免疫細胞がお互いに連絡を取り合うための情報伝達物質で、免疫細胞の活性化や増殖を促します。しかし、免疫力を上げるために十分な量を投与すると強い副作用がでました。夢の抗がん剤と騒がれたものの、思ったほど効果を上げることはできなかったのです。現在は、局所がんへの投与などに使われています。これが第2世代です。

[第3世代]

同じ時期に登場したのが、患者さんからリンパ球を取り出し、体外で大量培養・高活性化させて体内に戻すLAK療法とNK細胞療法です。これら第3世代は免疫細胞を使う療法なので、他と区別するために免疫細胞療法と呼ぶことにします。

[第4世代]

更に1990年代に入ると、がん細胞には正常細胞とは異なる独自の目印(がん抗原)があることがわかり、これをターゲットにしてがん細胞を攻撃する第4世代の新しい免疫療法としてペプチドワクチン療法が始まりました。がん抗原を皮下注射するものですが、残念ながら効果は十分とは言えませんでした。

[第5世代]

その後、2000年に入りT細胞の遺伝子を改変して投与するCAR-T細胞などの遺伝子改変T細胞療法や、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法が登場します。

T細胞の遺伝子を操作してCAR(キメラ抗原受容体)というタンパク質を作り出しがん細胞を攻撃するCAR-T細胞療法は、今現在一部の血液がん種で、適用条件に合った場合に限り保険適用されています。

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞によって攻撃されないために利用する「免疫チェックポイント」と呼ばれる制御機構をブロックすることで、T細胞を再び活性化させてがん細胞を攻撃することを可能にさせようとするものです。多くのがん種に健康保険が適用されてきています。

いずれも重篤な副作用を伴う可能性があるということを覚悟する必要があります。

この時期にもう一つ、樹状細胞ワクチンが登場しました。免疫細胞によるがん細胞攻撃のメカニズムの研究から、樹状細胞が免疫の司令塔となることが明らかにされました。そこでがん細胞を効率よく攻撃できるよう、樹状細胞にがん抗原(ペプチド)を取り込ませてワクチン化した免疫細胞療法が開発されました。健康保険は適用外のため自費診療で行われています。

第5世代の免疫細胞療法によるがん治療

第5世代のところで登場した樹状細胞は、攻撃部隊であるリンパ球のT細胞やB細胞に何を目印に攻撃するか指令を出すことで、がん細胞への攻撃が始まります。第3世代のNK細胞は樹状細胞など他の細胞の指令はなしに、がん細胞やウイルスに感染した細胞、がん化しそうな細胞を攻撃します。

これは私たちが自覚せずとも体の中で自然に起きていることです。
免疫システムが、このようにして日々がん細胞の排除に努めているのです。

樹状細胞やT細胞、B細胞、NK細胞など免疫系で働く細胞たちは、体を守るために、互いに連携しながらそれぞれが独自の役割を果たしています。中でも樹状細胞とNK細胞は連携して免疫監視システムを活性化し、がん細胞が免疫から逃れるのを防いでいます。

じゃあ、なぜがんになってしまうのか?

原因は複雑で多面的ですが、免疫老化が原因の一つとして挙げられます。免疫老化とは年齢とともに免疫システム自体が変化しその機能や効率が低下することです。つまり、免疫系で活躍しているT細胞やB細胞、NK細胞などの数や機能が低下することで、がん細胞を排除しきれなくなってしまうのです。

第5世代の免疫細胞療法は、そんな免疫老化を補うための治療と言えます。

第5世代の免疫細胞療法の位置づけと役割

T細胞を活性化させる樹状細胞ワクチンやNK細胞を活性化させるといった免疫細胞療法は、治療を受ける患者さん自身の血液から単球(樹状細胞の元となる細胞)やNK細胞を分離し、培養して製造します。遺伝子操作や細胞に傷をつけるなどの操作はなく、薬剤でもありません。体に備わる免疫システムを出来るだけ自然な形で補強するための治療なので、副作用の心配はほとんどありません。

これらの治療はもともと標準治療で治りきらない「がん難民」の救済のために開発されました。自己免疫力を高めQOLの向上や延命効果を期待しています。標準治療にとって換えられる治療として開発されたものではありません。

もちろん標準治療と免疫細胞療法の併用は、どちらの治療にとっても相乗効果を期待できます。また、年齢や病状など様々な要因から標準治療が難しい場合は、最初の治療の選択肢となる場合もあります。また、免疫細胞療法はがんの再発予防も期待できる治療法です。

エビデンスがないとの声も聞きますが、エビデンスがないとは臨床試験を行った結果治療効果がなかった場合に使用される言葉です。個別化医療が進んでいるがん治療では、集団としてではなく個々人の患者レベルでの評価を考えるべきでしょう。

がんの発生が免疫力の低下と関わっていることから、免疫細胞療法をがん治療で行う意味は大きいと考えます。

歴史も含めた長いご説明となりましたが、免疫細胞療法の意味や役割についてご理解いただけましたら幸いです。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
免疫療法の東京キャンサークリニック
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