【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長
医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長
私たちの体は日々新陳代謝を繰り返しており、新しい細胞が生まれ、古い細胞や異常な細胞は免疫細胞によって除去されています。
しかし、年齢とともに免疫システムも老化します。
免疫システムの老化は免疫細胞の機能の低下を意味します。
年齢とともにがんになる人が増えるのは免疫システムの老化が一因であると言えるのですが、がん以外にもいわゆる「老化」も免疫システムの老化が一因ではないかと思われます。
実は近年老化の研究において「老化細胞」が注目を集めています。老化細胞が体内で蓄積されることが、老化や加齢による病気の原因ではないかと考えられるようになり、老化細胞をいかにして除去するかという研究が今、世界的に関心を集めています。
そこで、今回は老化細胞と老化細胞除去の可能性についてお話しさせていただきます。
老化細胞とは
老化細胞とは一言でいうと、細胞分裂が停止し炎症性物質や酵素を分泌する細胞のことです。
細胞が分裂を停止するのはどのような時かと言いますと、
- 一つには、細胞の分裂回数は決まっているため、一定数の分裂を終えると分裂が停止することが分かっています。これはレナード・ヘイフリック博士によって発見されたので、ヘイフリック限界と名付けられています。
- もう一つは、化学物質、紫外線、放射線、電磁波、ストレス、たばこ、ピロリ菌、ウイルス等によって細胞のDNAが損傷することで細胞分裂が停止することが分かっています。
これは異常な細胞が増殖してしまうのを食い止めるための、体の防御機能によるものと考えられています。
細胞のDNAが損傷した時に、アポトーシスのメカニズムが働き自然死する細胞や、遺伝子の故障が重なりがん化してしまう細胞もいます。しかし、このどちらでもなく、細胞の機能を持ちながらも分裂が止まった状態になるのが老化細胞です。
老化細胞の蓄積は、免疫細胞の働きの低下が一因
何らかの原因で細胞分裂を停止した細胞 – 老化細胞は、「SASP」と呼ばれる炎症性サイトカインやケモカインなどの炎症を促進する物質や、腫瘍形成を促進する物質を分泌します。
SASPの分泌は、免疫細胞を引き寄せて老化細胞を除去するよう働きかけるものでもあります。
老化細胞の数が少なくSASPの分泌が一時的なものであれば、免疫細胞によって除去されると考えられますが、免疫システムも年齢とともに機能が低下し、うまく働かないことがわかっています。
免疫細胞によって除去されずに体内に老化細胞が蓄積してしまうと、老化細胞が分泌するSASPが蓄積され、周囲の正常な細胞や組織に影響を与え慢性炎症を引き起こし、その結果、がんや循環器疾患、2型糖尿病、認知症など様々な加齢による病気に繋がると考えられています。
※SASP: Senescence-Associated Secretory Phenotype(老化関連分泌表現型)
免疫システムの老化-免疫老化
年齢とともに免疫システム全体の機能が低下することを、免疫老化といいます。免疫細胞の数の減少や機能低下、メモリー細胞の減少や機能低下、免疫応答の発動に時間がかかるといったことが免疫システムの機能低下に見られる要因です。
老化細胞を除去する治療
老化細胞を除去する治療法の研究開発が世界中で行われています。検討されているいくつかのアプローチについてご紹介します。
- 老化細胞に発現する分子やタンパク質を標的にした薬剤やワクチンの開発
- 細胞内の代謝に係る酵素を阻害する薬による治療
- 既存の抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤による治療
- 遺伝子改変を行ったT細胞(CAR-T細胞)による治療
有望な治療法の研究開発が進んでいますが、まだ研究段階であり実用化にはもう少し時間がかかると言われています。
老化細胞を除去するNK細胞の可能性
先にもお話ししたように老化細胞はがん細胞と同じように、本来体に備わる免疫という生体防御システムが十分に機能しないために除去されずに蓄積してしまうのです。
免疫システムで活躍する免疫細胞の1つにナチュラル・キラー細胞(NK細胞)がいます。NK細胞は正常細胞ではない異常な細胞を見つけると、他の免疫細胞の指令を受けなくてもすぐに攻撃して排除に努めることができる細胞です。
すでにがんの治療や予防などにNK細胞の働きは期待されているところですが、老化細胞もがん細胞と同様に正常細胞ではない異常な細胞に変わりありませんので、NK細胞の働きが大いに期待できるのではないかと考えられます。
年齢とともに免疫システムや免疫細胞の機能が低下すると言われていますが、NK細胞が元気に活躍してくれるような生活を心がけたいものです。
関連コラム「免疫系で活躍するNK細胞」
NK細胞に元気で活躍してもらうためのポイントをお伝えいたします。
- タンパク質、鉄分、ミネラルや葉酸などのビタミンをとる。
- 良質な水をとる。
- 体がアルカリ性を保つよう心掛ける。
NK細胞に限らず全ての細胞に言えることですが、細胞には「酸素」「水」「栄養素」が必要です。
「酸素」は、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリに必要です。その酸素を細胞に届けるためには赤血球が必要です。
そこで、赤血球が不足しないようにタンパク質、鉄分、ミネラル、葉酸などのビタミンを意識的にとっていただきたいです。
また、細胞が「栄養素」の吸収や代謝活動に欠かせないのが「水」です。そこで良質な水を意識的にとっていただきたいです。
現代の私たちの生活は意識しないと酸性に傾きがちです。さらに加齢とともに老化細胞の蓄積で慢性炎症を引き起こしているとなると、体は酸性に傾いてしまっていると考えられます。体をアルカリ性に戻すことで炎症の改善も期待できると思いますので、体をアルカリ性にする食材を意識してとるようにいたしましょう。
老化は避けられないものだとしても、老化のスピードは緩められると思いますので、一緒にがんばりましょう!
東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
免疫療法の東京キャンサークリニック
tokyocancerclinic.jp
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1丁目3-2 曙杉館ビル9階
TEL:0120-660-075