【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長
医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長
陰極まって陽となり、陽極まって陰となる
朝晩に去り行く夏を感じる季節となりました。ほっとするような、名残惜しいような気持になります。
地球の北半球に位置する日本では、6月20日頃に1年で最も日の長い夏至を迎えると、そこから少しずつ日が短くなり冬へと向かいます。12月21日頃には1年で最も日の短い冬至を迎え、そしてまた夏へと向かうというリズムを繰り返しています。
中国からアジアに広まった陰陽思想に、“陰極まって陽となり、陽極まって陰となる”という言葉があります。物事が一方に偏りすぎると、自然にその反対の状態に変化するという意味です。
最も日の短い冬至が“陰極まった”状態で、そこから夏に向かう、つまり“陽に転じる”ということになります。こうした地球のリズムは地球を含む宇宙の形成過程で偶発的にもたらされたのか、はたまた大いなる存在の取り計らいによるものなのかわかりませんが、地球はこうして中庸でいるようバランスをとっているのですね。
このように陰と陽という対極的なエネルギーの一方が極まる時、その対極のエネルギーへと向かうというのは、病気の本質にも当てはまるのではないでしょうか。
発熱と免疫
分かりやすい例として発熱について考えてみます。
風邪ウイルスが体内に侵入し細胞に入り込んで増殖をしていくなかで、体の免疫機構がウイルスと闘う過程で起こる免疫反応が発熱です。発熱により免疫細胞が活性化されたり、ウイルスを弱わらせたりします。こうして体は徐々に快復へ向かうことになります。
発熱はウイルスと免疫細胞の攻防がクライマックスを迎える、まさに“陰極まった”状態であり、ここから陽に転じ、元の健康な状態へと戻っていくのです。
発熱は悪いことのように思えますが、免疫細胞が病気と闘い体が元に戻ろうとするサインなのです。だからと言って放っておいて言い訳ではありません。汗が出る時は水分やミネラルの補給を、汗が出にくい場合は体を温める食材を摂るなど、症状により適切に対応する必要があります。
解熱剤を服用することで免疫の働きを止めてしまうという考えもありますが、高熱が続き体力の消耗が激しい場合などは服用した方がいいときもありますので、自己判断をしないで主治医に相談してください。
がんと免疫
がんはどう考えたらいいでしょうか。
がん細胞は健康な人でも毎日数千個できていると言われていますが、免疫機構が機能していれば免疫細胞によって排除されるように体はできています。しかし、さまざまな要因が重なり、がん細胞を排除しきれず5mm以上の塊になると、PET-CTなどでがんと診断できるレベルになります。
このようにがん細胞の増殖が優勢となり、がんと診断された時を“陰極まった”時だと捉えてみてください。
がんは複雑で多面的な病気なので、風邪のように2,3日寝ていれば快復するというわけにはいきませんが、陰極まったからがんとなって現れてきたのです。一方のエネルギーが極まるとき、その対極のエネルギーへ向かう“陰陽”という自然界の法則は、宇宙や地球の構成要素である人間にも当てはまると考えるのは自然なことではないでしょうか。
陰極まってがんとして現れたのですから、ここから陽に転じていきます。
本来なら免疫機構が排除できたはずのがん細胞を、排除しきれずがんとして現れてきたわけなので、免疫機構が十分に機能し免疫細胞にしっかり働いてもらうのにはどうすればいいか、生活環境を見直したり内観する時間を持ったりすることが大切になってくると思います。
病気になり臥していると、両親や家族など身近な人たちにいかに自分が支えられてきたか、その有り難味がひしひしと心に浮かび、病気になるまで酷使してしまった身体、それでも呼吸し生かしてくれている身体を想うと、感謝の念で全身が満ちてきます。感謝の気持ちを持つだけで、免疫が活性化してくるような気がします。
病気は多面的で複雑です。身体も精緻で複雑にできており、その仕組みも未解明の部分がたくさんあります。しかし身体のことを十分理解していなくても、私たちはたくましく生きています。だからこそ、最近つくづく思うのですが、健康になることは実は以外とシンプルなことなのではないかと。
免疫とは“病(疫)からまぬがれる(免)”ことです。この免疫の仕組みは生まれながらに体に備わっていることを考えると、ここに大きなヒントがあるように思います。
がんのステージに沿った適切な治療の検討と選択を進めながら、体本来の力を信じて健康な元の状態に戻るよう日々を大切に過ごしていきましょう。
東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
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