細胞はなぜがん化するの?

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

細胞ががん化するのは、DNAの損傷や、長年にわたる炎症・酸化ストレス・加齢などの影響によって、遺伝子変異やエピジェネティックな変化が徐々に蓄積し、細胞の増殖や死を制御する仕組みが破綻していくことで起こります。

がん化のメカニズムは非常に複雑で、正確さとわかりやすさのバランスを取りながらきちんと伝えることは簡単ではありませんが、現在の知見に基づいたがん化のプロセスについてご紹介します。

がん化のプロセス

私たちの体はおよそ37兆個もの細胞から成り立っており、それぞれの細胞は必要に応じて分裂・増殖し、古くなった細胞と入れ替わっています。役目を終えた細胞は、自然に死ぬようにプログラムされています。

しかし、長年にわたってさまざまな要因にさらされるうちに、この制御システムに不具合が生じることでがあります。これが、がん化の出発点となるのです。

ここからは、健康な体を維持している制御システムに異常が生じることで、がん化へとつながっていく代表的な変化や仕組みについてご紹介します。これらは必ずしも順番通りに起きるわけではなく、相互に影響し合いながら進行していくものです。

①DNA損傷と修復エラーの蓄積

細胞核の中にあるDNAは、細胞の働きを正確に調整するための設計図の役割を果たしています。

DNAは生物にとって極めて重要な物質にもかかわらず、紫外線や化学物質、活性酸素などさまざまな外的要因によって日々数万から数十万ヵ所も損傷が起きるとされています。

外的要因以外にも、DNAの複製エラーが生じることがあります。DNAは細胞分裂のたびに正確にコピーされるよう仕組まれていますが、それでもごく稀にミスコピーが生じることがあります。このような自然発生的なエラーが蓄積し、がん化の引き金になることもあります。

でも安心してください。細胞にはこうした損傷やエラーを修復するための精巧なメカニズムが備わっており、通常はDNA修復機構によって正確に修復されます。ところが、修復がうまくいかなかった場合には、DNAの塩基配列が元の配列と異なる誤った情報のまま固定されてしまいます。それが「遺伝子変異」です。

DNAと遺伝子

DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基からなる長い分子で、生物の設計図全体を保持しています。
その一部が遺伝子と呼ばれ、特定のタンパク質を作るための情報(設計図)を担っています。

例えるなら、DNAは百科事典全巻、遺伝子はその中の1章にあたるようなイメージです。

②遺伝子変異の段階的な蓄積

遺伝子変異が1つ起きただけでは、通常、がんにはなりません。がん化には、複数の異なる遺伝子に変異が段階的に蓄積していく必要があります。

中でも、細胞の増殖を止めたり、自然死(アポトーシス)を促したりする「がん抑制遺伝子」と、細胞の成長や分裂を促す「がん遺伝子」の異常は、異常細胞の暴走的な増殖を引き起こします。

さらに時間とともに、他の重要な遺伝子にも変異が重なることで、がん化が進んでいきます。

③テロメア制御の破綻

染色体の末端にある「テロメア」は、細胞の寿命を制限するストッパーのような役割を担っています。細胞が分裂するたびにテロメアは少しずつ短くなり、限界まで短くなると細胞は分裂を停止します。

しかし、遺伝子の異常などによってテロメアが再び延びる現象が起こると、細胞は無限に分裂できるようになってしまいます。

④エピジェネティックな変化による発現異常

DNAの塩基配列が変わらなくても、遺伝子の使われ方に影響する「エピジェネティック」な仕組み(遺伝子の「オン・オフ」を制御する仕組み)に変化が起こることがあります。

例えば、がん抑制遺伝子が正常な設計図を持っていたとしても、スイッチがオフになってその遺伝子が読まれなくなると、遺伝子変異がなくてもその機能が失われた状態になります。

こうした変化が起きると、細胞の異常な増殖を止めることができず、やがてがん化につながります。

⑤免疫監視からの逃避

通常、がん細胞のような異常細胞は免疫細胞によって早期に排除されます。しかし、がん細胞は自らを免疫細胞から隠す巧妙な戦略(免疫逃避)を身につけることがあります。

これによってがん細胞は体内にとどまり、周囲の組織に侵入したり、血管やリンパを通じて転移したりすることが可能になります。

⑥がん細胞集団内での進化的選択

がん細胞の集団の中には、さまざまな変異をもった細胞が同時に存在しています。これらのがん細胞は、限られた栄養や酸素をめぐる競争、免疫細胞からの攻撃、あるいは抗がん剤の影響といった過酷な環境の中で生き残りを図ります。

その結果、環境に適応できた細胞が生き延びて増殖していくという“進化”のようなプロセスが起こるのです。

さらに、がん細胞の中には「がん幹細胞」と呼ばれる、自己を複製しながら一部の細胞を分化させる性質を持つ特殊な細胞が存在すると考えられています。これらのがん幹細胞は、治療に対して強い抵抗性を持ち、がんの再発や転移の原因になることもあります。

このように、がんは単に遺伝子変異が積み重なった結果というだけでなく、「選ばれた細胞」が環境に適応しながら拡がっていくダイナミックな過程を経て形成されているのです。

小児・若年者のがんについて

ここまでお話してきたがん化モデルは、主に加齢とともに多くの要因にさらされた結果としてがんが発症する仕組みを説明するものです。

そのため、20歳未満のいわゆる小児がんや若年者のがんについては、このモデルでは説明しきれない部分があります。

ここでは、こどもや若い人に見られるがんの特徴について、簡単にご紹介します。

特徴①:短期間でがん化が進む

小児や若年者のがんは、少数の遺伝子変異で急速にがん化する特徴があります。

未熟な細胞(未分化細胞)は分裂スピードが速く、増殖しやすいため、1〜2個の重要な遺伝子の異常でも急激に増殖し、がんになることがあります。

特徴②:初期の遺伝子変異が大きな影響を与える

設計図の段階でミスがあると、最初から間違った建物が建ち続けるようなものです。胎児期や乳児期に変異が起こると、その後の細胞分裂すべてに影響が及び、短期間でがん組織が形成されてしまうことがあります。

特徴③:先天的・遺伝的要因が関与する場合がある

小児がん全体の約8〜10%は、がんを防ぐ働きを持つ遺伝子に、生まれつき変異があることが原因とされています。

このような場合、がん化のプロセスがすでに一歩進んだ状態で始まるため、がんが起こりやすくなります。

残りの約90%は、胎児期〜乳児期にかけて、本人の体内で偶然発生した遺伝子変異が原因と考えられています。

特徴④:免疫システムの未熟さ

子どもはまだ免疫機能が発達途上にあり、異常な細胞を見つけて排除する力が大人よりも弱い場合があります。そのため、がん化しかけた細胞が見逃され、増殖するリスクが高くなると考えられます。

このように、小児・若年者のがんは、細胞が急成長しているタイミングや、元々の設計図の異常によって、少ない変化でも一気にがん化してしまうことが多いのです。

最後に

以上が、がん化に関与する代表的な生物学的変化やメカニズムの一例です。

これらは直線的に進行するものではなく、複雑かつ動的に絡み合って起こるものであることをご理解いただければと思います。

がんを防ぐには、DNAを出来るだけ損傷させないようにする、日々の小さな選択の積み重ねが大切だと考えます。どんな事がDNA損傷につながるのかについては、改めてお話したいと思います。

人間の体には、本来自己調整機能、あるいは自然治癒力といったものが備わっています。体がそのような力を存分に発揮できるよう、体の声に耳を傾け、病気を遠ざける生き方をしていきましょう。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
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