【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長
医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長
私たちの体は60兆個の細胞でできています。(最近では37兆個とも言われていますが、)この一つひとつの細胞の内部には、何種類もの細胞小器官があり、それぞれが分業をしながら細胞に活力を与えています。その小器官の一つにミトコンドリアがあります。
ミトコンドリアは細胞に住みついた微生物!?
ミトコンドリアについて調べてみると、なんとも興味深く、その魅力にはまり込んでしまいます。
例えば、細胞には核があってその中にDNAがありますが、ミトコンドリアも独自のDNAを持っているのです。さて、これは何を意味するのでしょうか。実はミトコンドリアはもともと別の微生物で、それが細胞内に取り込まれたのではないかという説があります。つまり、細胞という自分自身の中に、ミトコンドリアという他人を住まわせていることになります。
ちょっと迷惑な話だと思われるかもしれませんが、他人かもしれないミトコンドリアがいなくなると、私たちは生きていけなくなります。何しろ、ミトコンドリアは私たちが生きていくためのエネルギーをせっせと生産してくれているのです。私たちが体内で消費するエネルギーの約95%はミトコンドリアから作られるのです。そのためミトコンドリアは細胞のエネルギー生産工場と呼ばれています。
細胞のアポトーシスに関与するミトコンドリア
実はこのミトコンドリアが、がんの発生と消滅にも重要な働きをしていることがわかってきました。
がん細胞は、遺伝子の異常によって発生します。がん化する細胞の数は、健康な人でも1日数千個もあると言われていますが、このような細胞は通常すぐに排除されるようになっています。細胞は何か問題が生じたときには、それを修復できない場合は消滅するようプログラムされているからです。この自ら消滅する生命現象をアポトーシスと呼んでいます。
アポトーシスにはさまざまな因子が関わっていますが、最終的にはタンパク質を分解する酵素であるカスパーゼが活性化することで、細胞が分解されて消滅していきます。このカスパーゼを活性化させるには、2つのルートがあり、その一つがミトコンドリアを介したルートです。
細胞のDNAが損傷した際に、細胞分裂をストップさせようとする遺伝子が働きます。その時、「分裂をストップさせるぞ!」というシグナルが発せられます。ミトコンドリアはそのシグナルをキャッチして、チトクロームcという物質を放出し、それがさらにほかの物質と結合したりしながらカスパーゼを活性化させ、核を凝縮させたり、細胞を断片化させたりして、異常を起こした細胞を消滅させてしまうのです。そうなると、ミトコンドリア自身も生き残れません。まさに自らをも犠牲にして、全体を救おうとするのです。
しかし、ミトコンドリアの機能が低下すると異常な細胞のアポトーシスを行えず、細胞のがん化につながってしまうのです。
関連コラム「ネクローシスとアポトーシス」
ちなみにがん細胞はミトコンドリアのエネルギー生産工場を利用せず、グルコース(糖)を大量に消費してエネルギー代謝を行います。PET-CT検査はがん細胞のこの性質を利用した画像診断となります。
ミトコンドリアの機能低下の原因と予防
ミトコンドリアの働きは加齢とともに数の減少と生産効率が下がることがわかっています。その原因の1つに活性酸素があげられています。
先に申し上げたようにミトコンドリアは細胞のエネルギー生産工場でもあります。工場ではエネルギー源となるATPという物質を作り出すのですが、その際に発生する大量の活性酸素によりミトコンドリアのDNAが損傷してしまい、機能不全を起こすと考えられています。
また別の原因としてミトコンドリアの温度が考えられます。
ミトコンドリアの活性温度は37℃のため、低体温により活性が損なわれ機能不全を起こすと考えられます。
そこでミトコンドリアを減らさない・効率を下げないためには活性酸素の除去と適正体温の維持が大切になってきます。具体的なポイントは次の通りです。
- 抗酸化作用のある食品の摂取
- 低栄養の改善
- 入浴
- 適度な運動
ミトコンドリアの機能低下はがんだけでなく、心臓病や糖尿病、脳卒中、老化など多くの病気に関係していると考えられていますので、ミトコンドリアの活性を意識した生活を心掛けましょう。
笹田先生のコラムが低栄養と低体温対策に役立ちますので、是非ご参考ください。
「冷え対策、冷えを制すれば健康を制す!?」
「低栄養になってませんか? アルブミンは栄養状態の指標」
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