標準治療について

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

標準治療は、がんを取り除く治療

一般的にがんと診断されるとがんセンターや大学病院で治療を受けます。そこで受ける治療は手術、抗がん剤、放射線治療の三大療法と呼ばれる標準治療です。

標準治療は健康保険がつかえる治療でもあります。

それはつまり、大規模な臨床試験などの結果をもとに、がんを取り除く治療として、その有効性や安全性が認められ、国にお墨付きをもらっている治療です。それ故に、“標準治療は科学的根拠に基づく、推奨される最良の治療法”と言われています。

なおかつ、がんの種類やステージによって治療方針が定められていて、それに基づいた治療計画(プロトコール)のもと治療が行われます。つまり標準治療の場合、同じ病名の患者さんにはほぼ同じ治療が施されるのです。

こうした治療の標準化によって、どこの病院へいっても同じような治療が受けられます。

がんのステージによる治療とその選択肢

がん治療においては、「がんがどの程度進んでいるのか」を把握することはとても大切なことです。このがんの進行度のことを病期(ステージ)と呼んでいます。

検診でがんの疑いがあると診断され、大きな病院へ行くと、いろいろな検査をされることになります。本当にがんなのかどうかから始まり、どのくらい進行しているのかといったことまで、きちんと調べないことには治療が始められないからです。多くの場合、がんの種類とステージにより定められたプロトコールに沿って治療を進めています。

ステージ分類

ステージの分類の仕方の一つに、国際対がん連合が作ったTNM分類があります。

T がんがどのくらい広く、深くひろがっているか

N リンパ節にまで転移しているか、しているならその広がり具合は

M 別の臓器に転移があるか

という3つの因子からステージを決めようというものです。

がんの種類によってその分類は違いますが、大雑把に言えば、

  • 粘膜固有層にとどまっていて、転移がないとI期
  • 粘膜筋板や粘膜下組織に浸透、あるいは筋層や漿膜にまで浸潤した、リンパ節転移が見られるとⅡ期~Ⅲ期
  • 離れた臓器に転移しているときにはⅣ期となります。

ステージが上がればそれだけ治療も難しくなると考えていいでしょう。

治療

I期なら早期がんと言えます。手術や放射線でがん組織を取り除くことが可能です。この段階で発見して治療すれば、がんは決して怖いものではありませんが、それでも再発の心配は残ります。

Ⅱ期・Ⅲ期だと、がん細胞の除去は困難になってくるので、手術、放射線、抗がん剤を組み合わせて治療にあたることになります。リンパ節への転移がある場合は、転移の状況によって、手術の範囲が決まってきます。この段階は、がん細胞はすでに血流やリンパの流れに乗って全身に広がっている可能性があります。そのため、手術や放射線でがん細胞をきれいに除去できたとしても、しばらくすると転移による再発が十分に考えられます。

再発すると、治療は一気にむずかしくなりますので、再発を防ぐ対策が必要です。再発予防には抗がん剤が使われます。抗がん剤は血流に乗って全身に広がるがん細胞や原発巣に残った微小ながん細胞に作用することが期待されます。しかし実際には、Ⅱ期・Ⅲ期でがんの治療を受け、寛解したと言われて退院しても、再発のために病院に戻る方が少なからずいます。

もしがんの再発を防ぐことができたなら、がんで亡くなる人は劇的に減少するはずです。再発を防ぐことは、とても重要なテーマなのです。

Ⅳ期になると、治療はとてもむずかしくなります。手術をするという選択肢はまずありません。手術をする場合は、治療のための手術というより、食べ物や水が通りやすいように胃の一部を切除したり、胃と腸を結ぶバイパス手術といったものになります。

治療法としては、抗がん剤しかありません。抗がん剤で延命は期待できますが、寛解は難しいと考えてください。そうなると一般的な病院では、ここで余命が告知され、緩和ケアをすすめられたりします。緩和ケアでは、苦しい症状を和らげるだけとなり、寛解に向けての積極的な治療は行われません。

寛解とは

がんの徴候や症状の減少または消失した状態のことをいいます。がん細胞はまだ体内にある可能性があるので、再発する可能性もありますが、このまま完治する可能性もあります。

がんが再発した場合、治療は難しく、Ⅳ期と同じように標準治療ではほとんど手だてがなくなってきます。こうなると患者さんは緩和ケアへ行くしかありません。緩和ケアでは、苦しい症状を和らげるだけとなり、寛解に向けての積極的な治療は行われません。

このように、ステージが進めば進むほど寛解の可能性は低くなります。

がんの10年生存率

全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)が部位別ステージ別の10年生存率を発表しています。2005年~2008年にがんと診断された症例を見ると、いかに早い段階での治療が大事であるかがよくわかります。

現在、最もかかる人が多い大腸がんの場合、I期だと94.8%とほとんどの方が10年以上生存されています。Ⅱ期になると83.0%、Ⅲ期になると76.2%、Ⅳ期になると、一気に13.8%に下がってしまいます。大腸がんの次に多い肺がんの場合、I期だと67.6%、Ⅱ期になると34.5%と約半分になり、Ⅲ期になると13.1%、Ⅳ期になると2.1%となってしまいます。

この数字によって、標準治療の可能性と限界がはっきりと見えてきます。

標準治療の強みは早期のがんです。早期がんに関しては、プロトコールに沿った標準治療が効果を発揮します。しかし、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期と進むにつれて、標準治療の効果は減少してしまいます。特にⅢ期・Ⅳ期という進行したがんに対して標準治療を適用しようとすると、年齢やその時点での心身の状態によりますが、抗がん剤の使用が患者さんの体に重い負担となる場合もあります。免疫力も低下して、がんを消すつもりの治療が逆にがんを勢いづかせてしまうことにもなりかねないのです。

標準治療は科学的根拠に基づき、がんを取り除くことができる最良の治療法であっても、標準化された治療の場合、Aさんには有効でもBさんには期待する効果が得られないことがあるのです。そこで、ようやく個別化という視点での治療薬や治療法の開発が進みつつあります。

進行したがんにも標準治療で対処していこうと思えば、免疫力を上げる工夫が必要です。免疫細胞療法と併用すれば、免疫力の低下を防ぐことができます。10年生存率の数字を見る限りは、進行したがんの場合、寛解は絶望的だと思えてきますが、免疫というものを考慮した治療が行われるようになれば、この数字も変わってくるはずです。

最近では、大学病院やがんセンターでも免疫細胞療法の研究が盛んに行われるようになっています。今後、さらに研究が進んで、Ⅲ期、Ⅳ期という厳しい状況の方でも、希望が持てる標準治療というものが確立することを願わずにはいられません。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
免疫療法の東京キャンサークリニック
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