がんの動きを読む、ダブリングタイム

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

がん検診で腫瘍マーカーの値が基準値よりわずかに高かった時、もしくはがんの治療後、「しばらく経過を見ましょう」と言われると、ほっとする反面、不安な気持ちもついてくるものです。「本当に大丈夫だろうか?」「ちゃんと治っているのか?」——そんなとき、医師たちは“がんの動き”を慎重に見つめています。
その動きを読み解くヒントの一つが、ダブリングタイム(doubling time)という指標です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは「がんがどれくらいのスピードで進んでいるのか」を知るための“時間のものさし”のようなものです。

ダブリングタイムとは

ダブリングタイムとは、腫瘍(がん)が2倍の体積(または細胞数)になるまでにかかる時間のことです。

がん細胞は1個が2個に、2個が4個に、4個が8個にと分裂して増殖(指数関数的増殖)していくので、ダブリングタイムがわかっていれば、どのくらい経てば、どのくらいの大きさになるかが推定できます。ダブリングタイムが短いとがんの増殖するスピードが速く、長いと増殖スピードが遅いということになります。

がん細胞の増殖スピードは、がんの種類や性質、原発か転移かなどによって大きく異なります。

腫瘍マーカーとダブリンタイム

腫瘍マーカーというのは、がん細胞が作り出すがん特有の物質を、血液検査によって測定したものです。一般的には、その数値が高くなれば、がんは増殖しているととらえます。

がんの増殖速度を示す指標であるダブリングタイムの計算に必要な、がんの体積や細胞数を測定するのは難しいため、がんに関連する腫瘍マーカーを用いたダブリングタイムで、間接的にがんの増殖スピードを評価するのに役立てることができます。

ダブリングタイムが短い、つまり「数値がすぐに倍になる」場合は、がんの動きが活発である可能性があります。逆に、数か月かかってようやく倍になるような場合には、比較的ゆっくりしたがん、もしくは再発ではない可能性も出てきます。

この情報は、治療のタイミングを決めたり、検査間隔を調整したりするのに役立ちます。また、治療後にマーカー値の上昇が止まったり、ダブリングタイムが長くなったりすれば、治療がうまくいっているサインと考えられることもあります。

もちろん、ダブリングタイムだけで全てが決まるわけではありません。他の検査や画像診断と合わせて、総合的に判断されます。

片対数グラフで見る腫瘍マーカー

指数関数的に増えていくがん細胞の動きを視覚的に見る場合、普通の一次関数グラフで表すと、がんの増殖の本質を反映しないため、片対数グラフというものを使います。

一次関数グラフで表すと急激な上昇を示し、がんがすごいスピードで成長しているという間違った解釈をしかねません。しかし、がんは指数関数的に成長していくため、片対数グラフで表すと一定のダブリングタイムで成長していることが示されます。

がんが死滅する時にも高くなる腫瘍マーカー

がんの経過観察を行っていると、腫瘍マーカーの値がダブリングタイムから予想する直線から大きく外れて予想する値の倍近くになっていることがあります。このような時、がんが縮小していることがよくあります。

なぜ、がんが縮小してきているのに腫瘍マーカーが高くなるのか、と不思議に思われるかも知れません。実は、がん細胞が死滅する時にも、腫瘍マーカーとなっているがん特有の物質が大量に放出されるからです。そのため、腫瘍マーカーが一気に高くなってしまい、患者さんをがっかりさせるのです。

がん細胞は雪だるま式に1→2→4→8…と増えるという、特徴的な増え方をするということと、死滅する時にも腫瘍マーカーが高くなるという情報をもっていないと、がんは悪化していると思ってしまいます。しなくてもいい心配をし、余計な治療をして体力を落としてしまうこともあるのです。

最後に

私は診療の際にはダブリングタイムのことを念頭に置き、経過観察と治療計画を行っています。腫瘍マーカーの動きがダブリングタイムと比較して、高すぎても低すぎても、良くなっている可能性が高いと考え、より詳細な検査をすることにしているのです。

今回は少し難しい話になってしまいましたが、一番お伝えしたかったのは、

腫瘍マーカーだけで一喜一憂することはないのです。ということです。
皆様のご参考になれば幸いです。

(最終更新:2025年6月16日)

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