【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長
医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長
がんにはさまざまな分類の仕方があります。胃にできる悪性腫瘍は胃がんです。大腸にできる悪性腫瘍は大腸がんです。では骨にできる悪性腫瘍は何でしょうか?骨がんとは言いません。骨の場合は骨肉腫と言います。血管にできる悪性腫瘍は血管がんとは言わずに血管肉腫と言います。
がん化する細胞の種類による分類
がんと肉腫は、がん化する細胞の違いによって分類されます。
細胞は大きく上皮細胞と非上皮細胞、血液細胞に分けられます。上皮細胞というのは皮膚とか胃や腸の粘膜など臓器の表面を作っている細胞です。非上皮細胞というのは体を支えている部位である骨や筋肉、血管、脳、神経などを構成する細胞です。
上皮細胞にできる悪性腫瘍を「がん」と呼び、非上皮細胞にできる悪性腫瘍を「肉腫」と呼びます。
余談ですが、骨肉腫が肺に転移することがよくあります。その場合、肺に転移したがんは肺がんとは言いません。転移性肺腫瘍という言い方をします。乳がんが骨に転移した場合、そのがんを骨肉腫とは言いません。骨転移という言い方をします。
血液細胞の悪性腫瘍は、上皮細胞・非上皮細胞の悪性腫瘍とは異なり、「血液がん」や「造血器腫瘍」と呼ばれ、その中で具体的な病気に応じた、例えば白血病、多発性骨髄腫などの名称で呼ばれます。
がんと肉腫のそれぞれの特徴
上皮細胞由来の悪性腫瘍(がん)
上皮細胞由来の悪性腫瘍は、大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、前立腺がんなど、がん罹患数の統計で大多数を占めています。上皮細胞は飲酒や喫煙、食事、慢性炎症、放射線、紫外線、ウイルス、環境汚染など生活習慣や環境要因に影響を受けるためです。
また、上皮の方が新陳代謝=細胞分裂が活発なので、遺伝子のミスコピーも起こりやすく、細胞ががん化するリスクは高いということもあります。
がんは手術、抗がん剤、放射線による治療が行われます。
非上皮細胞由来の悪性腫瘍(肉腫)
非上皮細胞由来の悪性腫瘍は、骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など、希少がんとも言われており発生率は低く、悪性腫瘍全体の1%未満とされています。
ほとんどの肉腫の原因は明らかではありません。肉腫は環境要因よりも遺伝的要因や放射線・化学物質・ウイルスへの暴露、リンパ浮腫などがリスク要因と考えられています。
肉腫の治療は、手術が主体で必要に応じて化学療法や放射線治療が行われます。肉腫は発生頻度が低いため、他のがんに比べ臨床研究が少なく治療の選択肢が限られている部分もあります。
骨肉腫の場合、かつては手術をして手や足を失うということもありましたが、最近では病巣のある部分だけを切除して、人工骨や骨移植によって手足を残すという治療法も増えてきています。
血液細胞由来の悪性腫瘍(血液のがん)の特徴
血液細胞である造血幹細胞やリンパ球由来の悪性腫瘍(血液のがん)は、白血病やリンパ腫、多発性骨髄腫などとして知られています。血液のがんは発生率や死亡率においては比較的低いと言えますが、毎年数パーセントの日本人が罹患しています。血液細胞の白血球は感染と闘い、赤血球は体中に酸素を運ぶなど生命活動に欠かせない細胞です。
血液のがんの治療法については、抗がん剤など化学療法の研究が他のがんに比べて活発に進められてきたと言えます。
話がややこしくなりますが、悪性腫瘍は固形がん、非固形がんという分類もあります。固形がんというのは胃がんとか大腸がん、乳がん、肺がんといった、塊を作るがんのことです。固形がんの場合、塊になっていますが不均一な塊なので、抗がん剤だけではすべてを死滅させることができません。
一方、血液のがんに対する抗がん剤の効きやすさについては、次の点を挙げられます。
- 白血病や悪性リンパ腫といった非固形がんは、がん細胞が大きな塊にならず比較的均一な細胞の集団であるため、抗がん剤ががん細胞全体に作用を及ぼすことができ、効果が高くなります。
- 血液のがんは全身に広がっているため、血流に乗って循環する抗がん剤といった化学療法が効果を発揮しやすい。
- がん細胞は分裂速度が速いため細胞が2つに分裂するときの状態は不安定で、DNAが露出するためDNAを標的とする抗がん剤の効果を上げやすい。
このため、血液のがんは化学療法による治療の奏功率が比較的高く、寛解に至る例も少なくありません。
当院に血液のがんでご相談に来られる場合、やはり、化学療法による標準治療をご提案させていただいております。
がんと診断されても、それががんなのか肉腫なのか、固形がんなのか非固形がんなのかということで、対処の仕方も違ってきます。特徴が分かればご自身で治療を選択する際の助けにもなります。がん、肉腫、血液のがんの特徴について頭の片隅に入れておいていただければと思います。
東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
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