「がんと共に」から「がんを忘れる」日々へ

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

がんという病気を抱えながら日々を過ごすというのは、想像以上に心も体も揺さぶられるものです。通院や治療、検査結果に一喜一憂し、副作用に向き合う日々。そんな中で「がんを忘れて過ごす」なんて、できるわけがない――そう思われる方も多いかもしれません。

でもそんな生き方を実践されている患者さんがいます。
定期検査で病院に行くときや、たまに私を訪ねに来てくれるときは、がんサバイバーであること思い出すそうですが、それ以外の時はがんを意識せずに生活しているそうです。

そこで、本日は私がその方から学んだことを、皆さまと分かち合いたいと思います。

‟がんを忘れた時間”に気づくこと

がんと共に生きる中で、すべてを忘れることは難しくても「少しだけ忘れることができた時間」を意識することは、とても大切です。

病院の帰り道、ふと空を見上げたら雲がきれいだった。久しぶりに生演奏の音楽を聴いたら、全身で感動した。そんな瞬間は、ほんの数分でも、あなたを「病気中心の時間」から「自分自身の時間」へと連れ戻してくれます。

そのような時間は、意識しないと見逃してしまいがちです。でも、気づいてあげるだけで、日常は少しずつ色を取り戻していきます。

“心の揺らぎ”との共存

がん治療中には、どうしても心が揺れます。調子の良い日と悪い日、不安な日と前向きになれる日。
「元気そうに見えても、実は不安が押し寄せている」――そんなご自身の心の動きに戸惑うこともあるでしょう。

でも、それは自然なことです。がんの治療は、身体だけでなく心にも多くの負荷をかけます。
心が揺れることを責めずに、揺れる自分をそのまま静かに受け止めてあげる。
そして揺れる心を、あきるまで、ただ、少し上の方から観察してみる。

“忘れる”ことは、努力ではなく現象

「がんのことを忘れなければ」と頑張ってしまうと、それ自体がまたプレッシャーになります。
忘れるというのは、意識して行うことではなく、自然に起きる現象です。

例えば、集中して映画を見ていたら、がんのことを考えていなかった。
友人とおしゃべりしていたら、薬の副作用を気にしていなかった。
それで十分です。

大切なのは、先ほど申し上げたように「がんを忘れていた自分」に気づくこと。
そして、その時間を少しずつ増やしていくことです。

前向きとは、笑顔をつくることではない

「前向きでいなければ」と思うあまり、無理に笑顔を作ったり、自分の本音を押し込めてしまうこともあります。

でも、本当の意味での前向きさとは、「落ち込まない自分になること」ではなく、「落ち込んでも、また戻ってこれる自分」でいることではないでしょうか。

怖くなってもいい、涙が出てもいい。
でも、今日のごはんが美味しかった、眠れた、散歩に行けた――それだけで、あなたはきちんと「前を向いている」のです。

がんを忘れる日々――それは、自分を取り戻すこと

がんを抱えながらも「がんのことを忘れる時間があった」という経験は、まさに「生きている実感」そのものです。

がんは人生に割り込んでくるけれど、あなたの人生そのものではありません。

少しずつでいいのです。

ほんの短い時間でも、「がんを忘れる」日々を重ねていくことで、あなた自身の輪郭がくっきりと戻ってくる。

「あなたの時間」を取り戻すことができます。

最後に

がんを忘れる生き方を教えてくれたこの患者さんは、‟がんだから、こうしなくては”‟がんだから、これを食べよう”‟がんだから、こういう服装を”といった、がんという枠を作って自分を閉じ込めないそうです。そして、気負わず、気の向くままに自分流に、仕事と家庭、趣味の旅行などに忙しく過ごされています。

そうは言っても、がんの治療を続けながら「元気に、前向きに日々を送る」ことは、決して簡単ではありません。“言うは易し行うは難し”です。

でも、自分の中にある“生命の針がプラスに振れる”前向きな力――自然にでる笑顔や、静かな喜びを、少しずつ拾い集めていくことで、「がんと共に」から「がんを忘れる」日々へと変化していくかも知れません。

美味しいものを食べたとき。趣味に没頭しているとき。季節の移ろいを感じたとき。
その「がんを忘れた時間」は、あなたが「生きる時間」を取り戻している証ではないでしょうか。

あなたが、あなたらしく、今日を過ごせますように。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
免疫療法の東京キャンサークリニック
tokyocancerclinic.jp


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