【執筆・監修】 笹田 亜麻子
東京キャンサークリニック院長
医学博士・日本血液学会認定専門医・日本内科学会認定総合内科専門医・
日本内科学会認定内科医・日本医師会認定産業医
暑い夏を乗り切るためには、栄養をしっかり摂り、体力と免疫力をつけることが大切です。
毎日しっかりと食べているつもりでも、実は“栄養”が摂れていない(!)なんてことがあります。特に暑い夏の食卓は、さっぱりしたメニューになりがちなので注意したいものです。
そこで今回は、栄養状態を反映する、アルブミンという蛋白のお話をいたします。
アルブミンは栄養状態の指標
血液検査結果に、『総蛋白』と『アルブミン』という項目を見たことがありませんか?
前者は「血液中の蛋白の総量」を指し、後者は「血液中のアルブミンという蛋白の一つの量」を指します。アルブミンは肝臓で作られます。
アルブミンは総蛋白の約6割を占める重要な蛋白で、100種類以上あると言われる血液中の蛋白で最も多い量を占めており、栄養状態の指標となります。
アルブミンは半減期(血中の濃度が半分に減るまでの期間)が 14~21 日と長いため、血液検査のアルブミン値は、約3週間前の栄養状態を反映しています。
アルブミンの正常値は4.0g/dl以上で、3.5g/dl以下を『低栄養』と呼びます。
アルブミンの働き
- 血液の浸透圧を調節
- 種々の物質と結合し、それぞれの目的の場所へ運搬します。
アルブミンが減るとどうなる?
前述のアルブミンの役割より、
- アルブミン値が低下すると、血管内の血液の浸透圧が低下します。すると、血管内と血管外の浸透圧バランスを取ろうとして、血液中の水が血管外へ移動するため、血管外の組織に水がたまり、浮腫(むくみ)が起こります。
- アルブミンは、カルシウム、亜鉛、銅などの微量元素や、脂肪酸、酵素(こうそ)、ステロイドホルモンなどと結合し、体が必要とする目的部位へ運搬します。ところが、アルブミン低下により体が必要とする部位へ運搬されにくくなると、代謝や内分泌などのバランスが崩れ、体の調整機能の低下、免疫低下をはじめとする全身の不調につながります。
また、アルブミンは毒物や薬剤とも結合し、中和する作用を持ちます。しかし、アルブミン低下により毒物や薬剤の中和ができなくなると、毒物の作用発現や、薬剤の副作用のリスクが高まります。特に強くアルブミンと結合する薬剤には、抗凝固薬ワーファリン、抗けいれん薬ジアゼパム、強心薬ジゴキシン、消炎鎮痛剤イブプロフェンなどがあり、アルブミンが低い低栄養の方では、薬剤の中和ができず、薬剤血中濃度が高くなり、副作用が出やすくなります。
アルブミンはどのような時に低下する?
アルブミンは、蛋白摂取不足による栄養状態の低下の他、
- 肝機能低下による、アルブミン合成障害
- 腎不全、ネフローゼ症候群による、腎臓からのアルブミン漏出、広範囲のやけどによる、体表面からのアルブミン漏出、たんぱく漏出性胃腸炎による、消化管からのアルブミン漏出
- 感染症、炎症性疾患、悪性腫瘍などの疾患や、手術などの侵襲による、アルブミン消費増大の時に低下します。
アルブミン低下が見つかった場合は、栄養状態の低下を疑うと同時に、アルブミン低下をもたらす疾患が隠れていないかを判断する必要があります。
アルブミンを増やす『良質な蛋白』とは?
アルブミンを低下させる疾患がある場合は、疾患の治療が必要となります。
では、低栄養によるアルブミン低下時は、どうすればよいのでしょうか。
アルブミンを増やすには、『良質な蛋白』を摂る必要があります。 蛋白は20種類のアミノ酸から構成されており、そのうち、人間の体で合成できない、つまり、食事から摂取しなければならない『必須アミノ酸』が9種類あります。 良質な蛋白とは、9種類の必須アミノ酸がバランスよく含まれ、生体内での利用効率が高い『アミノ酸スコア』が100に近いものです。 アミノ酸スコアが高い蛋白を含む食品は、肉類、魚介類、牛乳・乳製品、卵類、大豆製品などであり、いずれもアミノ酸スコアは100です。ちなみに、白米のアミノ酸スコアは65、食パンは44、にんじんは55です。
アミノ酸スコアが100の食品は、豆類以外はほとんどが動物性食品です。植物性食品である穀類や野菜類にもたんぱく質は含まれますが、重要なアミノ酸が少ないなど、アミノ酸のバランスがよくありません。このような食品では、たんぱく質の利用効率は下がってしまいます。
したがって、植物性蛋白だけではなく、動物性蛋白を積極的に食事に取り入れることが大切です。
良質な蛋白は、どのくらいの量を食べるとよい?
日本人の食事摂取基準によると、一日の蛋白質摂取の推奨量は、成人男性は一日60g、成人女性は一日50gです。いずれも体重1kg当たり1.0~1.2gの計算となります。
肉や魚を60g食べても、蛋白質を60g食べたことにはなりません。人の体のように、動物や魚の肉も、水分や脂肪など蛋白質以外の成分も多く含んでいますし、さらに厳密には、料理の加熱によるアミノ酸の有効性の変化や、食べた後の消化吸収効率など、考慮すべき点がたくさんあるからです。
したがって、以下からの話は目安となります。
卵1個(50g)には約7gの蛋白質が含まれるため、卵1.5個で蛋白質10gとなります。
紅鮭の切り身70gには約20gの蛋白質、その他の主な食品については表をご参考ください。
★さらに知りたい方は「文部科学省 食品成分データベース」をご参照ください。
一つ一つ覚えるのは大変ですので、大まかに、“肉、魚、卵の蛋白質の量は、食品の重さの約4分の1から5分の1”と私は覚えています。
動物性蛋白には、蛋白質だけではなく、脂肪分も多いため、鶏肉なら皮無し、牛肉なら脂身の少ない赤身を選ぶとよいでしょう。 また、炒める、揚げるよりも、蒸す、茹でる、焼くなどの調理方法により、脂肪分を減らすことができます。
高齢者の蛋白摂取量は、若い世代と同じか、それ以上必要!
しかし、高齢者が筋肉量を維持、増加させ、フレイル(虚弱)やサルコペニア(加齢による筋肉量の減少)を予防し、寝たきりではなく活動的な日々を過ごすためには、
- 若い頃より少ないどころか、若い成人世代と同様の蛋白量が(体重1kg当たり1.0~1.2g)必要とされており、
- 蛋白制限を必要としない慢性疾患のある高齢者では、さらに2~3割増やした蛋白量(体重1kg当たり1.2~1.5g)が必要です。
1日3回の食事から摂れる量に限りがあれば、間食にも、チーズ、茹で卵、牛乳など良質な蛋白質を多く含む食品を摂ったり、アミノ酸栄養補助剤を取り入れるなどされてはいかがでしょう。
まとめ
- 低栄養は代謝、分泌、免疫の低下など全身の不調に関わる
- 低栄養の分かりやすい指標となるのが、血液検査のアルブミン値
- 低栄養を防ぎ、活動的な生活を送るには、アミノ酸スコアが高い良質な蛋白質を十分に含むお食事が大切
ご参考になりますと幸いです。
お付き合いいただきありがとうございます。
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