がん細胞の親玉、がん幹細胞

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

がん細胞には正常細胞と同じように、もとになる細胞=「がん幹細胞」が存在することが近年の研究でわかってきました。

1997年にカナダのトロント大学付属研究所のJohn E. Dick博士らにより、白血病でがん幹細胞の存在が最初に明らかにされ、その後、2003年に米国ミシガン大学のMax S. Wicha教授らによって乳がん、2005年、2006年には九州大学の森正樹教授らにより肝臓と大腸のがん幹細胞が発見されています。
がん幹細胞には解明されていない部分がまだたくさんありますが、すべてのがん細胞はがん幹細胞から派生しているという仮説が唱えられています。

抗がん剤や放射線が効かない、がん幹細胞

そしてがん幹細胞の存在は、これまでのがん治療のあり方に一石を投ずるものとなりました。なぜなら、がん幹細胞には抗がん剤と放射線が効きづらいことがわかったからです。

がん幹細胞の特徴の一つとして、細胞分裂がとても遅いことが挙げられます。つまり、分裂を停止した休眠状態にあることが多いのです。

一方、がん細胞は正常細胞に比べて細胞分裂の速度がとても速いことが特徴なので、抗がん剤や放射線治療はこの点に着目して開発されています。細胞が2つに分裂するときの状態は不安定で、DNAがむき出しになるため、分裂の速度が速いほど攻撃されやすくなるのです。ですので、細胞分裂がとても遅いがん幹細胞はこれらの治療の標的になりにくく、抗がん剤と放射線治療は効きにくいのです。

また、がん幹細胞は抗がん剤を排出する能力に長けているという特徴があります。

がん細胞は抗がん剤が内部に浸透することで細胞核が破壊されて死滅します。しかし、がん幹細胞だと抗がん剤が細胞内部に浸透しても、排泄するポンプのようなものを持ち合わせているので、抗がん剤が効きにくいのです。さらに、がん幹細胞は抗がん剤や放射線によりダメージを受けても修復する能力が高いと言われています。

がん幹細胞が再発や転移の原因かも

がん幹細胞は細胞分裂の仕方にも特徴があります。

がん細胞の場合は分裂して自分と同じ細胞を作ります。1個から2個、2個が4個と際限なく分裂し続けます。

一方、がん幹細胞は2つに分裂したときに、1個は自分と同じがん幹細胞に、もう1個は普通のがん細胞になります。がん細胞になった方はどんどん細胞分裂を繰り返し増殖していきますが、がん幹細胞になった方は、最初にお話したようにほとんど休眠状態で、時が来ると再び異なる2つの細胞に分裂して、1個はどんどん増殖していき、もう1個はがん幹細胞になり休眠状態となります。それ故、がん幹細胞は女王蜂やがんの親玉などと言われています。

つまり、がん幹細胞を叩かない限り、がん細胞は延々と作り続けられてしまうのです。治療が上手くいったはずなのに、数年後に再発や転移が見つかることがよくあります。この原因は、抗がん剤や放射線から逃れたがん幹細胞や手術で取りきれなかったがん幹細胞が、再び分裂してがん細胞を作り出しているからだと考えられるようになってきました。

がん幹細胞の存在は「がん細胞の多様性」を説明する上で重要であり、この研究が新たな画期的ながん治療に繋がることと期待されています。

がん幹細胞を標的にした治療法の開発

日本では、2008年には慶應大学や大阪大学が動物実験でリンパ球や樹状細胞を使ったがん幹細胞の分子をターゲットにした免疫細胞療法で、がん幹細胞を死滅させることができると証明しました。がんの根治に繋がる治療法として、免疫細胞療法が注目されました。

また、潰瘍性大腸炎やリウマチに使われているスルファサラジンと抗がん剤の併用療法や、脳腫瘍グリオブラストーマのがん幹細胞に高発現するCDK8を阻害する薬の開発が注目されています。

海外でもがん幹細胞に関わる転写因子、シグナル伝達経路、エクソソームなどあらゆる調整因子を標的とする薬物、ワクチン、抗体、そしてCAR-T細胞などが開発されており、臨床応用される日が待ち望まれます。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
免疫療法の東京キャンサークリニック
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