がん細胞の多様性

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【執筆・監修】 阿部 博幸
東京キャンサークリニック理事長

医学博士
一般社団法人国際個別化医療学会理事長

細胞の遺伝子に傷がつき最終的にがん細胞となってしまうことを「細胞はなぜがん化するの?」でお話させていただきましたが、がんに関連する遺伝子は数100種類あると言われています。つまり「がん」を細胞レベルでみると遺伝子の壊れ方(遺伝子変異)は様々で、「がん」はいろいろながん細胞で組織されていると言えます。

MHCクラスI分子を喪失したがん細胞

遺伝子変異が起きた細胞の特徴の1つに、「MHCクラスI分子」の消失もしくは発現の低下があります。
MHCクラスⅠ分子は自己と他者(非自己)を区別する標識のようなもので、正常な細胞(自己)にはこの標識がでています。免疫細胞の1つであるNK細胞は、この自己を示すMHCクラスI分子がない細胞や発現が低下している細胞を異常な細胞(非自己)とみなして、認識するとすぐに攻撃をしかけます。
MHCクラスI分子の上のペプチド(がん抗原)を喪失したがん細胞も、異常な細胞としてNK細胞により認識され攻撃対象となります。

しかし、がん細胞にはMHCクラスI分子を発現しているものもいます。ここでキラーT細胞の出番となります。キラーT細胞はがん細胞を特異的に認識して攻撃できる細胞です。

MHCクラスI分子を発現しているがん細胞

MHCクラスI分子の発現率を調べた論文があります(Biotherapy,22:327-331,2008)。このデータでは原発巣、転移巣によってMHCクラスI分子の発現率が変わることや、がん種によっても発現率が異なることが示されました。

このデータで示された大腸がんをみてみると、原発巣では32%、転移巣では72%にMHCクラスI分子の消失もしくは発現レベルの低下がみられました。
つまり、このケースでは原発巣のがん細胞の32%はNK細胞によって排除できる可能性がありますが、残りの68%はNK細胞の監視から逃れてしまうのです。一方、大腸がんの転移巣のがん細胞の72%はNK細胞によって排除できる可能性がありますが、残りの28%はNK細胞の監視から逃れてしまうのです。

NK細胞の監視を逃れようと、正常細胞を装ってMHCクラスI分子を出しているがん細胞。
その分子の上にはがん抗原(がんの目印)を提示しています。このがん抗原自体も数多くの種類が存在しますので、「がん」は様々な種類のがん抗原を提示するがん細胞で組織されていると言えます。

MHCクラスI分子の分子にがん抗原を提示しているがん細胞は、NK細胞では攻撃することができません。

その代わりに、樹状細胞からがん抗原の情報を受け取り活性化したキラーT細胞が、同様に樹状細胞から情報受け取ったヘルパーT細胞によってさらに活性化・増殖を繰り返し、がんの目印を目指しピンポイントでがん細胞を攻撃するという、免疫の仕組みが体に備わっているのです。

遺伝子変異により多様化したがん細胞に対応するには、自然免疫系のNK細胞と獲得免疫系のキラーT細胞の両者の働きが欠かせないことがわかります。

免疫チェックポイントに関わる分子を発現しているがん細胞

がん細胞表面のPD-L1分子がキラーT細胞表面のPD-1分子に結合されることで、キラーT細胞の活性化が阻害されてしまうことがわかっています。この免疫応答は免疫チェックポイントと呼ばれています。

このPD-L1/PD-1経路を遮断するための抗体薬が開発されており、すでに臨床で使われています。これらの薬を使うことで、キラーT細胞が働かないように押されたブレーキを解除したり、ブレーキがかけられないようにしたりすることで、キラーT細胞ががん細胞を攻撃することができるのです。

抗体薬は副作用として自己免疫疾患のような症状が報告されています。効果予測のバイオマーカーが待たれるところです。

治療により耐性をつけるがん細胞や、がん細胞の親玉“がん幹細胞”

がん細胞の多様性について近年わかったこととして、放射線や化学療法によるがん治療から逃れたがん細胞は、細胞分裂をするにつれて遺伝子変異を起こし、それらの治療に対して耐性を持つようになるということがあります。そのため、抗がん剤治療をする場合は、一度に複数の薬剤を組み合わせて投与する方法が主流となってきています。

その他に、がん細胞の親玉と言われるがん幹細胞の存在も明らかになってきました。がん幹細胞も「がん」を組織する多様な細胞の集団のなかの一つになります。これにつきましては別の機会に譲りたいと思います。

今回はがん細胞の多様性についてお話させていただきました。「がん」は多様ながん細胞の集団であるとご理解していただけましたら幸いです。

東京 九段下 免疫細胞療法によるがん治療
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